Stars






今日も波は穏やかで。
見上げた空は見事な秋晴れだった。
心地よい風は頬を撫で、体をすり抜けて海へと帰る。

最初の誕生日は祝い損ねて、後日慌てて宴会をした。
二度目の誕生日は、陸でレストランで食事をした。
三度目の誕生日からは、宴会のあとこっそりと格納庫で、二人だけのお祝いをした。
そして去年の誕生日は、綺麗に焼き上げたケーキを皆で食べた。
お前の分まで。
そしてもうすぐ、また誕生日がやってくる。
今年もお前はこの船にいないのに。

もう何週目になるかわからないこの航路で。
毎日表情を変えるこのグランドラインで。
退屈という言葉は非常に不似合い。
めまぐるしく表情の変わるこの海をしってしまったなら、離れがたい気がしてくる。
一秒ごとに表情を変えるこの青を、この船のクルーは。
そして船首で笑う海賊王は愛してやまないのだ。

ゾロと別れてからもう二年になる。
鷹の目を追って、メリー号を離れたゾロは
また新たな約束を掲げて、力強く足を踏み出したのだ。
「絶対ここにかえってくる。」
そう誓って歩き出した力強い背中を、サンジは黙って見送った。
彼の夢がかかっていることだから、簡単に引き止めるなんてもちろん
出来なかったし、さびしいなんて思ったら、口に出したら、
彼の歩みを止めてしまいそうだと思ったから。
彼は絶対にサンジの言葉で歩みを止めるなんて事はしないだろうけど。
それでも歩いていく。そういう人だけど。
サンジが彼の夢を自身の夢と同等に想っているからこそ
自分のためにもそんな言葉を唇に乗せるなんてできなかった。
そういう付き合いをしていく、していけるのは自分だけだと思いたかったから。
言の葉というのは不思議なもので、口に出してしまうと魔力を持つかのようだ。
音にすることで自信にもなり、不安にも姿を変える。
だから、思っても口に出さない。不安要素なんて絶対に。
そう思って見送った彼の背中は、今でも瞼の裏に焼きついて
いつでも鮮明に思い描くことが出来る。
薄れることはせずに、期待と祈りという装飾を身にまといながら。
サンジはあの力強い背中を今も、これからも想い続けるのだろう。



その日からもう二年近く経つのだ。
今年の誕生日にも彼の帰還は間に合わなかった。
でも、クルーたちは楽しみが伸びただけだと信じて疑わない。
きっと自分たちの仲間は、夢を形にして帰ってくると信じているのだ。
だから、いつものように船首を陣取った船長はご機嫌だったし、
航海士は海図を眺め、風を読むし、
考古学者は分厚い本を捲る。
狙撃手は船医とともに歌い、笑う。
その傍らで料理人は、今夜の宴の準備をするのだ。

『心は、いつも一緒だから。』

その言葉を口癖にするようになった船長は合図と同時に食事に手を伸ばした。
今日のメニューは和食づくし。
やはり誕生日は主役の好物でなければ。
自分のことに無頓着な彼は、きっと今ごろ野宿でもしていることだろう。
だから、彼の分まで船長は頬張り、
航海士は飲み、
考古学者はそれを見守り、
狙撃手は笑う、
船医は、泣く、
そして料理人は微笑むのだ。
そうは出来ない、不器用な仲間を想って。





時刻はすでに深夜。
片づけをしながら今日の宴を思う。
はしゃいで、笑って、飲んで飲んで。
遠い地にいるであろう仲間を想う。
そして彼の仲間たちは瞼を落とした。
おめでとうの想いをこめて。
静かになった甲板に出れば、夜風が頬を撫でる。
贈り物は届いただろうか。
彼の元へ。
届いているか?俺達の想いが。
煙草の紫煙は、彼の人を探すかのごとく空中に散った。








気がつけば森の中だった、なんてよくある話。
この人物にとっては。
夜もふけ、視界が悪くなったので今夜はここで休むとする。
飾りっけの無い、森の奥深く。
聞こえてくるのは静かな虫の音。
わずかに覗く星空だけが唯一の明かり。


今日の昼間海岸沿いを歩いていたら、頭の上に何か落ちてきた。
見上げると、懐かしいカモメの運び屋。
守銭守の航海士がやつから新聞を買っていた。
そんなことも一緒に思い出されて。
何かを伝えるかのごとく頭上を何回か旋回しているカモメに了解の意の手を挙げた。
それを受け、また次の地へ飛んでいくカモメを見送って
ゾロは落ちてきた包みを拾い上げる。
それはいつかの伝説の島で入手したアイテムだった。


夜の森。
太い幹に背中を預けて。
暗がりの中で、思い出したように包みを広げる。
真ん中のボタンを押せば聞こえてくるはず。
懐かしい潮騒の音と・・・そして。



『お?これもう話していいのか?
ゾロ---、誕生日だなっ!!しししっ!!おめでとさん!!』


『おお、ゾロ。こっちのことは心配するな。
今日もこの勇敢な海の戦士の戦いで、メリーは・・・
まあ、なんだ、誕生日おめでとさん』

『生きてるの?ちゃんと帰ってきて早くお金返さないとやばいわよ?
まあ、誕生日だし?今月分の利子はまけておくわね。』

『ゾロ!!怪我してないか?!大丈夫か?
誕生日おめでとう!!!いい傷薬を作ったから、帰ってきたらゾロにやるからな。』

『剣士さん、誕生日ですってね。おめでとう。
・・・え?私はもう話すこと無いわ・・・次の人は?』

『ゾロ--。飯食ったか?今日はおまえの好きな和食だらけの宴会なのに
残念だったなーー。ま、ちゃんと帰ってきたらそん時はしょうがねえから、
おまえの好きなもん作ってやるよ。』


溢れ出したのはたくさんの『おめでとう』
たくさんの想い。
意識せず、口元が緩んだ。
そして・・・

『・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・』
『あー、ゾロ。誕生日おめでと。・・・早く世界一になってこい。』

波の音が聞こえない。
風の音も聞こえない。
彼の声だけが零れた。

きっと・・・とゾロは考え、今度こそ微笑みの形を作った。
恥ずかしがり屋の恋人の。
精一杯の、おめでとう、を。
隅っこで真っ赤に顔染めて、小声で呟く愛しい人を思い浮かべて。
胸いっぱいに吸い込んで。

仲間を、彼を想い空を見上げる。



空は快晴。
雲一つ無い。
きっと明日はいい天気。
だってこんなに星が瞬いている。


あいつも今ごろ星を眺めているのだろうか。
この沢山の星をばら撒いたこの空を、どこかから見ているのか。
広い海のどこかから。
広い世界のどこかから。
空を見上げ、流れる星に。


いつかまた逢える日を。
ともに歩いていく日々を。
愛しい想いを。

君に届けと願いながら11月11日の夜はふけ行く。


end





春ちゃーーん!すげーよ、すげーよ!
アンサンの文章力は!
ゾロとサンジの気持ち、心に響いちゃったよ!
遠距離恋愛。
でも、心は通じてる。
いつかきっとゾロが帰ってくる事を信じて…。
トーンダイアルって、便利ですねー。
空島の人たちにも感謝だ☆
有難うございましたぁ!!